ここ数年、マーケティングの世界では、不況下でも好調な「ブランド」に話題が集中しているが、本書はそれに「待った」をかけた、画期的な1冊である。著者によると、モノが売れるかどうかは、9割方「店頭で決まる」。このことを認識しないままマス・マーケティングに慣れてしまうと、「『量販店の第一次商圏一万世帯に網をかけて、三十%の人々に理解してもらい、十%の人々に買ってもらおう』などといった発想をしてしまう」。
インターネットマーケティングの世界で活躍する著者がなぜ、「営業マン」に焦点を当てているのか、疑問に思った人もいるかもしれないが、それは、営業マンこそが「新時代のアクティブ・マーケター」であり、店頭を知る人間の定性情報こそが、他社を出し抜くためのマーケティングの最重要項目だからである。
では、具体的にどのように営業マンを育成し、現場の情報を吸い上げればいいのか。マネジャーやトップに上がってきた情報をどのように扱えばいいのか。その答えは本書に書かれている。営業日報の書き方から、営業マンの評価方法、営業支援の是非、トップマネジメントの心構えまで、いずれも具体的でじつに読みごたえがある。インターネットマーケティングの最先端を知りたい人にとっても、有用な情報といえるだろう。
本書は、マーケターにとっては、これまでブラックボックスだった店頭情報の重要性を、営業マンにとっては、これまで見過ごしがちだった自分たちの隠れた価値を認識する良いきっかけとなるだろう。マーケターが食われるか、営業マンが食われるか。いずれにせよ、本気でモノを売るための真剣勝負が始まることは間違いなさそうだ。(土井英司)
仮説作りは店頭から
──マーケティングのプロである稲垣さんが、商品開発の担当者ではなく、営業担当者に向けて本を書いたことに意外な印象を持ちました。
主な想定読者は、消費財メーカーの営業マンです。長年、商品開発や市場調査に携わりながら、彼らにじれったさのようなものを感じていました。
1990年代以降、小売業の店頭は商品でギッシリになり、バイヤーは、POS(販売時点情報管理)のデータを見て仕入れ判断を下すようになりました。営業マンが熱意でバイヤーを口説ける余地など、とうの昔に消滅している。それなのに、相変わらずフットワークの軽さや熱意だけを売り物にした突撃型の営業マンがあまりに多い。
せっかく店頭に足を運んでいるのですから、明日の売れ筋を作り出すことに意識を向けるべきです。消費者との対話や、売り場の観察を通して、店頭で起きている小さな変化を取材する。店頭には、販売促進や商品開発など、明日の売れ筋を作り出す仮説につながる事実が多くあります。営業マンは、店頭で市場の声に耳を傾ける、「受信型」に生まれ変わるべきです。
──最近は、多くの経営者が、本書の副題にあるように、「仮説を立てろ」と社員に指示をしています。しかし、成功例は少ないのは、なぜでしょうか。
仮説の材料となる、事実の収集量が足りないからです。仮説とは、事実を観察するという地道な作業を積み重ねることで自然と出てくるもの。決して捻り出すものではありません。経営者が号令をかけただけで仮説は生まれない。
「仮説の材料なら、POSデータがあるじゃないか」との反論が聞こえてきそうですが、POSデータで分かるのは、「売れた結果」だけ。あの定量情報をいくら眺めても、明日の売れ筋は分かりませんし、アイデアが浮かぶことなどまれです。
では、どのような事実を集めればよいのか。消費者の生の声、つまり定性的な情報です。特に、「どんな点を気に入って使っているのか」といった、肯定的な声が重要です。人間は悪口を言うのは得意で、否定的な意見はいくらでも出せるし、想像だけで話ができます。でも、肯定的な意見は、本当にその商品を購入し、使ってみないと出てこないものです。
──個人だけでなく、企業レベルでも情報に対する認識を変える必要がありそうですね。
本来、企業の経営者にまで上り詰めたような人は、感性が豊かなはずです。現場と同じ事実を共有できさえすれば、自ら仮説を立て、リスクを負って意思決定をする能力がある。
ところが、その事実がストレートに伝わらない。せっかく営業マンが事実を集めても、報告の過程で、現場の意気込みや課長の都合、部長の立場、取締役の思惑など、様々な雑音が加わり、中身が徐々にゆがんでいく。トップに届く時には、伝言ゲームのように、役に立たない情報と化しています。組織の中で、事実が公平に配信されていないことに問題があります。
ですから、営業日報の作り方から変えるべきでしょう。「所見」欄にあらゆる情報を盛り込むのではなく、事実と個人の仮説を記入する欄とは区別する。その事実を各階層の各人が見て、社長なら市場戦略、部長なら中期計画、社員なら販促計画というように、自分の仕事に必要な仮説作りに役立てればいい。必要なのは、情報の共有ではなくて、事実の共有なのです。
稲垣 佳伸(いながき・よしのぶ)氏
1952年神奈川県生まれ。76年早稲田大学商学部卒業。研究機関を経て、80年、マーケティング会社であるドゥ・ハウスの設立に参画。90年から現職。
(日経ビジネス 2003/05/12 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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そのとおりです。
頭の片隅では解っているものの、どうしても定量的な根拠を無理やり探そうとして他者と同じような真似をする。結局二番煎じの一手しか打てない。そんな悪循環は誰もが痛感しているだろう。
「もともと観察の為の情報」
このことを、とても自然な文体で、簡単に納得させてくれる一冊でした。
「本当の顧客10人」を観察すること、彼らを充分把握することの重要さを再認識でき、頭の中でもやもやとしていた霧がすっとはれたような読後です。
お薦め度、☆5つです。
しかし、何かしっくりこない。
読者に語りかけてるのか、ひとり言なのか、なんだか読んでいて違和感を随所に感じる。淡々と自論を述べているかと思うといきなり「~ではないですか?」とか「~ですね」と、一気に力が抜けてしまう。
もっと、ガツン、と言い切るぐらいの力強さがあれば◎だった。
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