古典新訳文庫がスタートしてからずっと楽しみにして読んできました。
いつかは、作品のイメージを変えるようなホームラン翻訳が出てくると期待していましたが、ついにやってくれました。翻訳家村上氏の50年間の夢をかなえてという翻訳なのですが、見事大ホームランです。
これまで新潮版を2回購入し2回とも挫折していた私ですが、本を開くや、躍動感とrealityにあふれる展開の速い描写に、宝島が実際に目の前に現れ、波がたたきつける岸壁の近くを小船で旅をし、海賊たちとの戦いに実際に参加することが出来、3時間後には大満足で本を読み終えていました。圧倒的なリアリズムと速い展開、魅力的な悪役シルバー、冒険小説はこうでなければと改めて小説を読む楽しさを思い出させてもらいました。
私が挫折してきた、昭和26年初版の新潮版は丁寧な翻訳なのですが、一読、英米文学作品宝島なのです。
「わたしは前部上甲板の風下の側にいたので、やはり風を受けて膨らんでいる大帆が邪魔して、後甲板のある部分は私には見えなかった。人影はまったくなかった。あの謀反以来一度も洗った事のない甲板の板には、たくさんの足跡がついていた。そして首をたたき割られた空き瓶が一本、排水孔の中を生き物みたいにあっちこっちに転がっていた」(新潮文庫)
対する村上版は、ハードボイルド翻訳、簡潔で生き生きとしています。
「立ったところは前甲板の風下側で、まだ風をはらんでいる主帆が邪魔をして、後甲板の全部は見えなかった。視界に人影はなかった。反乱が起きてから一度も磨いていないデッキには、無数の足跡がのこり、首をもがれた空き瓶が一本、排水溝のなかを生き物のように、あちらへこちらへ転がっていた」(古典新訳文庫)
今回、村上版宝島を読み、この作品が奇跡のようなすばらしい冒険小説であり、多くのハリウッド映画や娯楽映画、文学の原点なのだという事をかみ締めました。
いままで、私と同じように宝島が楽しめなかった人々へ、何か面白い小説を読みたいと考えている人に、またパイレーツ オブカリビアが好きなあなたに本書を強く勧めます。
Dead man's chestという名称に対して日本語できれいな適訳を見つけるのはむずかしですね。棺桶島は適当でないでしょう、死人箱島は、多分、佐々木直次郎訳に対する翻訳者の敬意だと思います。一つの単語で、名訳、迷訳が決まるのではなく全体のreadability、言葉の選び方、主語述語のつながり、はっきりいって言葉選びのセンスだと思います。