本書はまんが原作者の大塚英志が89年に著した『物語消費論』
の文庫版だ。
00年代のオタク系サブカルチャー論のブームの火付け役が、東浩
紀『
動物化するポストモダン』であり、その議論の下敷きには本書
の大塚の議論があることは有名だ。たしかに日本流ポストモダン
をデータベース消費として具体化した東の本の功績 は大きいこと
は認める。しかしこの本を読めば、大塚から東への転換と比べれ
ば、それまで「無言」であったオタクカルチャーに初めて明確な「言
葉」を与えた大塚の物語消費論の方が、比較にならない ほどイン
パクトが大きかったのではないかと思えてくる。
都市伝説や週刊少年ジャンプなど、数多の80年代サブカルチャー
をめぐって展開する本書だが、根幹にあるテーマは物語創作につ
いてだ。80年代末、そして現代の読者にしても未だに物語の創作
にはオリジナリティの夢を追いかけてしまう。しかし、大塚は乱暴に
も読者をその夢から揺り起こす、ビックリマンというサブカルチャー中
のサブカルチャーを例題にして。物語はすべて提示されなくてもいい。
むしろ虫食い部分を故意に残しておいた方がいい。その穴ぼこは、
消費者自身が埋めていくだろう、創作というまた別の「創作」によって。
詳しくはぜひぜひ、本を手にとってみてもらいたい。
不遜な言い方になってしまうがこれまで、評者は大塚によい印象をもっ
ていなかった。特に対談本に関しては、どうもその語り口と考え方に
反感を覚えていた。だがこの著書において氏を見直した。その他にも
00年代のマンガ論者の批評にしろ批評概念にしろ、大塚のこの本の
中にはすでにその萌芽があるわけで、その先見の明には驚かざるを
得ない。まさに「もっと評価されるべき」タグをつけたいところだが、逆
になぜ「もっと評価されないのだろう?」という疑問について考えたく
なってくる。
評者の出しうる結論は一つ、本が時代より早すぎた、これである。