小津監督の、「晩春」の次作となる作品。ロー・アングル・ショット、人物2人が並んで腰掛けて話をする場面や対峙して話をする場面の構図及びカットの切り替えの妙、そして筋の転換点で挿入される何気ないカット(本作では、室内の静物の他に、墓地、電車、お寺、箱根の山等)といった小津映画の特徴は本作でもたっぷり。ただし、原節子は出演せず、笠智衆は脇役で、田中絹代、高峰秀子、上原謙の3人が主となってストーリーが展開する。この日本映画全盛期を代表する美男美女の競演が画面にもたらす輝きは見事だ。
ストーリーは暗め。宏(上原謙)が好きなことに気づいたときには時遅く三村(山村聡)と結婚した宗方姉妹の姉(田中絹代)が、特に夫が失業してからひどくなった夫婦間の冷え込みにもめげず、宏への想いを胸にしまったまま、BARを経営して生活を支え、離婚を勧める妹(高峰秀子)の言葉にのらず、逆に夫婦は我慢してよくなっていくもので、流行を追うことが新しいことではないと、古さを守ることの大切さを説き、妹の姉を心配しての大胆な行動をたしなめ、宏と再会してもよろめくことなく、きびきびと日々を過ごす。しかし、無職の負い目と妻の宏への秘めた想いを知る夫は酒びたりで、妻に愛情を示せず、遂には暴力をふるう。そこで妻は別れる決心をするが、夫は急死する。暗い影が前途につきまとうことを嫌う妻は、宏とも別れて気持ちを整理する。古き良き日本の夫婦像を信じる姉が健気だが、最後に自分の気持ちに忠実に行動したことを妹に告げる笑顔に救われる。
今の感覚ではいらつく人もいるだろうが、古さに殉じる姉の立ち居振る舞いの美しさに目を奪われる。筋・出演者の点で戦後の小津監督作品中、異色作に分類できる本作を真っ先に見るべきとは思わないが、戦後の変わり行く日本・価値観を背景にした男女の小津流愛憎劇として、相当なファンは必見だろう。当時の薬師寺の雰囲気がいい。