たんなる宗教紛争についての本ではない。二者関係を足場として現代世界に起こっていることを読み解いている。自分が傷めば人は強くそれを感じるし、二者関係間であればそれを相手に伝え、対話する可能性がある。だが、三者関係(共同体的状況)のなかでそれが起こっても人は鈍感になってしまう。その鈍さの中で暴力は自然化し、重層化し、発言力の強い者が支配的になる。強い者の表象がさらに暴力となり横行する。だからこそ、支配的存在(による表象)が得意とし、理想とする「あるべき世界」ではなく、まさにそこに「ある世界」からはじめようというのが著者の主張の大事なポイントといえよう。濃厚な議論の積み重ねられる頁を繰るごとに、現代の世界大レベルからわれわれの身近な世界に通底する暴力構造の重さが伝わってくる。批判を怖れずに手元の実感を大事にし、自省しながら、学問、社会問題、世界と向き合う著者の姿勢は、研究を志す者あるいは自然化した暴力にぼんやりとでも気づいている人に、何かを頑張るための勇気を与えてくれる。