30冊の本の選出には、宗教学の歴史の展開が理解できるような配慮がなされつつ、他方で著者のお気に入りの学者や思想家の魅力を紹介することにも意を注がており、説得的だし、興味ぶかい。ヒュームやカントやシュライエルマッハーらの哲学的宗教論から、フレイザーやウェーバーやデュルケムやジェイムズらの宗教(人類・社会・心理)学へと展開する正統的な道筋が描かれつつも、たとえばブーバーの『我と汝』やショーレムの『ユダヤ神秘主義』やヤスパースの『哲学入門』などを通して宗教がもつ超越的な認識や体験の構造が語られ、あるいはホイジンガの『ホモ・ルーデンス』やレーナルトの『ド・カモ』やバフチンの『ドストエフスキーの詩学の諸問題』などにより脱近代的な宗教文化の可能性が想像される。日本人による著作の選択も独自的で、姉崎正治という日本宗教学の開祖ながらやや埋もれた感のある人物の日蓮論や、民俗学勢から柳田国男のみならず近年著作集が出版され始めた五来重(『高野聖』)が選ばれたのに加え、20前世紀を代表する知の巨人の一人である井筒俊彦のコーラン入門書や、海外でも評価の高い湯浅泰雄の『身体論』が取り上げられている。
読み方も、単に個々の作品の紹介に終らせず、今日の研究状況をふまえた上での問題点が指摘され、また今後の新たな読解の仕方についても示唆がなされる。全体的に短文すぎて、食い足りない感があるというか、もっと詳しく論じて欲しいな、といちいち思ってしまったが、この本の趣旨上、無理なお願いだろう。あとは当の名著を自分で読んで(読み返して)みて、自分で考えるしかない。