時に「夢のキング、悪夢のマルコム」と並び称されることもあるマルコムXの自伝。上巻では幼少時の回顧からボストン、ニューヨークにおいてハスラーとして鳴らした青少年期、逮捕・投獄された経験、獄中にてブラック・ムスリムの思想に感化され、出獄後ネイション・オブ・イスラムの導師となっていく経過が描かれている。
W.E.B.デュボイスはその著『黒人のたましい』(岩波文庫)において「アメリカの世界―それは、黒人に真の自我意識を少しも与えてはくれず、自己をもう一つの世界(白人世界)の啓示を通してのみ見ることを許してくれる世界である。この二重意識、この絶えず自己を他者の目によって見るという感覚、軽蔑と憐憫を楽しみながら傍観者として眺めているもう一つの世界の巻き尺で自己の魂を図っている感覚、このような感覚は一種独特のものである。」(P15)という有名な言葉を残しているが、マルコムの戦いもまた真の自我を持ちえない黒人の現状に対するものだったことがわかる。
印象的なのは戦時の総力戦の過程で階層上昇に成功した「一番乗り」の黒人に対する彼の批判である。「「上流階級」に属するといわれる黒人の多くは、白人たちに「自分たちはほかの黒人たちとは違うんだ」ということを印象付けるのに忙しくて、そうすることがただ単にすべての黒人に対する白人の軽蔑を維持するのに預かっているだけだということがわからないのである。」(P204)
白人の望む黒人像を演じることによって人種統合を目指したのがキングであるとするならば、マルコムはそのような戦術を徹底して拒否し、黒人の自我を追求した。どちらの方針が正しかったのか、それはわからない。だが、植民地主義と奴隷制度そしてその後の人種主義に基づく隔離と暴力に彩られる歴史がいかに黒人と白人の双方の内面に根深い後遺症をもたらしているのか。そのことをまざまざと考えさせてくれる一冊だと思う。