原子力の専門家でありながら、常に原発反対の立場を貫いてきた熊取六人組の一人、故瀬尾健氏の単行本『原発事故・・・その時、あなたは!』を2000年に再編集したブックレットで、同僚の小出裕章氏があとがきで強力に支援している。原著が95年の出版であるにも拘らず、原発の機種別に細かく想定されている事故の形態は炉心冷却系統の故障、炉心熔融、格納容器の損傷などで、事故の経過が3.11の福島第一原発事故にも恐ろしいほど良く当てはまっている。確かにここでは浜岡以外は地震については言及されていないが、事故の原因が何であれ、冷却機能が喪失すればメルトダウンの危険性があり、放射能流出の可能性が大いにあり得るということになる。これを読めば今回の事故が想定外どころか、起こるべくして起こったとさえ思える。
このブックレットは単なる理論的な机上のシミュレーションではなく、著者の人道的な思想が貫かれている。特に後半でのチェルノブイリ事故の検証と教訓では、瀬尾氏の鋭い洞察力と人間愛に満ちた考察が面目躍如たる筆致でまとめられている。そして最後は防災の為のマニュアルになる。余談ながら5月23日の参議院行政監視委員会に参考人として出席した地震学者、石橋克己氏は米コネティカット州の原発周辺の住民には有事の際のマニュアル本が無料で配布されていると述べていたが、残念ながら福島では、そもそも事故自体を想定していなかった為か、事故が起きてもどう対応すべきか、どこへ避難すべきか、また飲料水の確保など付近の住民には全く知らされていなかったのが現状だ。
尚この仮想事故においての被害想定は、事故にあたって何も解決策が取られなかった場合と仮定している。つまり放射能が垂れ流しになった時のものだ。今回の福島の事故のように政府や東電の対策が後手後手にまわる事も、既にここでは考慮されているというのが実に空恐ろしい。あとがきで小出氏が「国が守ろうとしているのは住民ではなく国自身」と書いている事にやりきれない思いがする。