この本は非常に面白い本です。
クレイ研究所の設定した7つの懸賞問題のひとつである「ポアンカレ予想」を証明したペレルマンが、どのようにポアンカレ予想を証明し、フィールズ賞、そして100万ドルもの懸賞金をも何故辞退したのか?を丹念に描いています。
ペレルマン当人は、今では誰との接触も断ち、本人への取材ができない状態にも関わらず、旧ソビエトで育った少年時代からアメリカでの研究生活で関わった数多くの人たち(数学者や教師)たちに取材を重ね、一度も会ったことがないペレルマンを描ききっています。
そのことにより、ペレルマンに対する想像が掻き立てられ、よりいっそう面白い物語になっているように思います。
これはソビエトを母国とし、アメリカで育ち、自身も数学少女であった筆者だからこそできたことでしょう。
恵まれていない教育状況であった旧ソビエトで、その荒廃に立ち向かう大人たちに守られ、純粋培養されたペレルマンが、世間一般の規律以上に厳しい規律を自分の価値基準としたからこそ、世紀の難問「ポアンカレ予想」を証明できたことであろうことが理解されます。
題名である『完全なる』証明とは、その証明自体が完璧であったことだけでなく、ペレルマンの精神そして人生までも含めて難問を解くために完備されたものだったからこそ成し得た「証明」であったということを示していたのだなぁと感じました。
純粋な対象への興味だけで数学の難問に立ち向かった、今となっては特異な存在であるペレルマンの精神は、我々が忘れてしまったものを思い出させてくれもします。
青木薫さんの非常に上手な翻訳により、ポアンカレ予想そのものを描くより、それを解いたペレルマンという人物に焦点をあてたこの本は、文句なしに面白い出来になっています。
手放しでお薦めできる一冊です!