文化勲章受章建築家が個人宅を設計することは基本的にないと思いますが、安藤さんは事務所の若手に、施主との交渉から現地視察、設計、施工から仕上げまですべての段階を経験させることで一人前にするという考え方があるようで、明らかにできないものも含めて170〜200の建築を手がけているそうです。《ライト、コルビュジエのような偉大な建築家もスタートは住宅に始まり、その結節点で再び住宅に立ち戻っている。これはやはり、人間という存在、その生活にもっとも近い住宅こそが建築の原点であり、その本質に迫る最も有効な手段であるからだろう》という観察は、業界では当たり前なのかもしれませんが、素晴らしいと感じました(p.16)。
安藤さんがこだわるコンクリートについても素晴らしい文章に出会いました。《鉄筋コンクリート構造は、鉄とコンクリートの熱膨張が等しく、その主成分であるセメントが、鉄の酸化を抑制するアルカリ性であるという、幸運な偶然によって、圧縮に強いコンクリートと引っ張りに強い鉄、双方の利点を明かせる画期的な技術です(中略、しかし)大気中の二酸化炭素に触れているうちに、表面からコンクリートのアルカリ性が失われていく「中性化」という現象によって、徐々に風化していってしまうのです》(p.80-)。コンクリートは生き物のように白い液体(コンクリートの白樺)を出してメンテナンスを要求するというあたりも素晴らしいな、と。
ライトが戦前の神戸を見て「アリゾナのようだ」と言っていたというエピソードには驚きました。当時、樹木はほとんど伐採され、六甲山はハゲ山だったそうです。植林は1902年に始まって、今に至っているそうです(p.116-)。こんなのも知りませんでしたね。