この本を書いているとき、著者の森治先生は、とても楽しんでいただろうと思います。きっととても忙しくて、大変で、時間がなくて、だけど心から楽しんで「君もすばらしい人生を送ろうじゃないか!」とメッセージをこめてつづられたのだと確信しました。
若い人にこそ今、一番必要な、誇りと信念と実力を持つ偉大な先輩からの生の声。これは本当にいい本です。
この本では世界初の快挙を次々に達成し、2011年10月現在の今もなお、宇宙を「元気に、そして健康に」飛翔している小型ソーラーセイル実証機「IKAROS」のプロジェクトリーダーである森先生が「なぜイカロス君だったのか」「なぜ快挙を連発できたのか」について、平易に、しかし深い意味をこめた文章で熱い思いを語っています。
数々の制約の壮絶さ。時間も資金も人手もない、あるのは情熱と宇宙への思いだけ、というまさに「勇気ひとつを友にして」空に飛び立った古代ギリシャのイーカロスのように、自分を縛る牢屋のような地上での約束事をクリアして、愛するイカ坊を見事に宇宙で花開かせていくまでの、手に汗を握るようなスリル感。無謀とも言えるようなすっぱりとした割り切りは、事実、それで大丈夫かとJAXA内部でも問われるような綱渡りめいた様相を呈していて、もしもメンバー全員が「世界一に挑戦する」「IKAROSを花開かせる」という目標をはっきり描いていなかったならとうてい達成できなかったかもしれないような見事さでした。
でも、その綱渡りには実は大きな仕掛けがあったのですね。徹底的に考え抜かれた二重三重ものバックアップ機構。省略可能な部分は地上試験すら行わない、でも一番大切な箇所では何十回も試験をする。これで本当にいいのかと朝まで激論になったりもする。
若く、たくましい研究者たちの熱い素顔と挑戦が、ここではたっぷりうかがえます。
指導者論にはまだ早い?でも森先生はプロジェクトリーダーとしての自分の手法と理論をきちんと分析し、自分は自分、黒幕・・・じゃなくて川口淳一郎先生のそれはそれとして敬意を持ち、きちんとチームをまとめています。
かつて吉田武氏は「はやぶさ」のことを「人の情熱を推進剤とした、世界で初めての探査機」であると著書に書かれたものでした(『はやぶさ 不死身の探査機と宇宙研の物語』より)。
その伝で言うならばIKAROSもまた、「人の情熱と創意工夫を推進剤とした、そうして太陽光で進んでいく世界で初めてのソーラーセイル」と言えるでしょう。
IKAROSがなぜ世界初を連発できたのか。若き俊英たちの驚くべき努力の数々。それはまさに驚異的です。
森先生が熱蒸着式の新素材を貼り付ける「場所」を選んだときの心意気、フェアリングをかぶせる前の「行っておいで」の最後の笑顔、そしてかの「はやぶさ」のイトカワへのタッチダウン時の的川先生の笑顔をほうふつとさせるような「自撮り」成功、データが降りてきた時のピースサイン。どの場面ひとつ取っても心躍らせずには拝見できません。
人が人であるために、そして輝く人であるために必要な誇りと情熱、「これがやりたい」という願い、それを見つけてまい進してきた先輩からの、これは最高のメッセージでしょう。
この本の一番最後にある著者からのメッセージ、これほど強く、暖かく、優しい意味を持った言葉を他のどんな本で発見できることでしょう?
私たちは戦わなければならない、自分の弱さと、あきらめと、まわりに流されてうなだれる、自分自身と今も、常も。
そうして私たちは協力しあわなければならない、夢を持ち、同じ目標に向かって進む、「仲間」たちと共に幸せに生きるために。
IKAROSは人類の夢の結晶です。想像もつかないはるか彼方、木星までも飛べるような、「太陽系大航海時代」の幕開けを「はやぶさ」が実証し、IKAROSが確立しました。
いつか遠い未来、私たちのうちの誰かの子孫が、日本人の誇りと勇気を胸に抱き、遠く星ぼしを超えてあの夜空を縦横無尽に旅をする。元気で健康に、そして自在に。
その「夢」の技術をIKAROSが、宇宙研が証明しました。
これは人類の歴史を塗り替える一歩「なのです」。
大勢にぜひ読んでほしい良書です。激賞します。