数理物理学者である著者による本書を一言で言えば、素粒子物理学や宇宙論といった最先端物理学に関する非専門家のための啓蒙書です。
しかし、500ページ近くにわたって細かい文字が詰まった大部な本書の内容は、きわめて多岐にわたっており、しかも、各話題について思想的な面でかなり深く掘り下げられた内容になっています。
物理学についても、量子重力や万物理論といった最先端の話題のみならず、古典力学、熱力学、電磁気学、統計力学、相対性理論、量子力学等と、ひととおり触れられています。
そして、本書は、物理学の表面的な成果を単に紹介しようとするものではなく、人間が自然世界を理解するとはどういうことなのかを追求する姿勢が基にあり、その意味では哲学的色彩も濃いものです。
実際、本書の記述は、古代ギリシャに遡る自然哲学から始まっていますし、カオス理論、計算量理論、オートマトン、ゲーデルの不完全性定理、直感論理等々、数学に関する話題も多岐にわたっています。
本書を読んで一番感心するのは、筆者の公平な批判精神です。本書は、自身の偏狭な自然哲学を主張するものでも、読者のSF的な好奇心を煽ろうとするものでも(なお、本書には、時間旅行の話題も断片的に触れられており、これはこれでけっこう楽しめるものです)、ましては無味乾燥な教科書などではありません。
そういう点では、啓蒙書として、まさにお薦めです。