本書は全体の2/3を使って、宇宙マイクロ波背景放射とそのゆらぎ、宇宙の大規模構、宇宙の加速膨張の発見等の天文学的知見、及び宇宙の始まりを記述する物理法則=力を統一するモデルを求めてきた物理学の歴史を概観する。ここまでは文庫・新書サイズの宇宙論の本なら触れる内容。
本書の特徴は、宇宙にインフレーションが起こったならば生まれたかもしれないマルチバース、ストリング理論とその応用としての多次元宇宙に浮く膜宇宙を手始めに、現時点では(あるいは永遠に?)検証不可能な領域へと本格的に足を踏み入れていること。具体的には、宇宙を膨張させるダークエネルギーを真空エネルギー(アインシュタインの宇宙項)だとした場合にエネルギー密度が知的生命体の発生を許す値をとることがいかに確率的にあり得ないことであり(ダークエネルギーの微調整問題)、かつそのような値をもたらすダークエネルギーの正体の究明およびそれを記述する物理法則の構築は極めて困難という問題意識から、未解決の量子論の解釈問題の一つの解である多世界解釈、人間原理、さらには時間や空間とは何か、そもそも観測する・存在するとはどういうことか、といった深遠な思索をめぐらす。我々の宇宙が無限にある宇宙の一つならダークエネルギーがほとんどあり得ないほど微調整された値であっても不思議ではないと言えるが、そういう安易な解決でいいのかを自問自答する。もちろん答えは出ない。そして最後に宇宙の10大疑問を列挙して締めくくる。
この本書の特徴的な部分を理解するのはかなりタフ。量子力学の解釈問題だけで1冊の本になる(新書では例えば森田邦久氏の「量子力学の哲学」)から。例えば本書でサラッと「デコヒーレンス(量子干渉性の消失)」が登場するが、説明がないので、その内容を知ろうと思ったら「量子力学の〜」等の他の本を参照する必要がある。
本書に記載された例、例えばブラックホールに飛び込んだ宇宙飛行士はどうなるか、人間の意識と観測の関係についての「ウィグナーの友人のパラドックス」、そして宇宙の観測においては測定対象と測定者が分離されていないとの指摘はわかりやすかった。