本書では残念ながら孫文が共和国大統領に就任するまでの半生までしか描かれていない。
この後孫文の政治理論には、日本での亡命生活や宋慶齢との生活などが大きく影響してゆくので、ぜひとも残りの半生を描いていただきたいものだ。
そうは言っても、一般の日本の出版物からはわからない、孫文をとりまく中国人達との関係や伝統的な思想、特に会党などの話題は、中国の裏社会のことにまで詳しくないと描けるものではないので、孫文がいかに理想だけではなく、信用を得て支持者を増やしていったかがわかって興味深い。
ただせっかく日本で出版された小説だったので、もっと日本人協力者や政治化との関係を、くわしく描写してもよかったのではないだろうか。また小説なので、若干事実と異なる描写や、最近になってわかった事実もあるので、読者はその辺を充分理解して読む必要もある。
例えばロンドンで誘拐されたのも、ハワイで梅屋庄吉からの資金を受け取った背景があり、そこまで足を伸ばす結果になったことや、清朝公館へ変名を使って自ら入ったところを拘束されたとか(事実かどうかは断定されていない)、香港の佐渡丸上で上陸して蜂起すべきと主張する宮崎滔天と激しい対立をしたことなどは、面白いエピソードであったと思う。
いずれにしても、初めて予備知識なしには快適に読み進める小説ではないので、あらかじめ歴史書などで知識をつけてから読むと面白さは倍増するであろう。