約二千一百年前の竹簡に書いたテキストを底本にした孫子というので期待したのですが、その点では失望しました。1972年に出土した竹簡は完全ではなく、壊れたりして失われた部分が非常に多い。謀攻篇など70字ぐらいしかありませんし、全く無い篇もあります。同時に出土した竹簡は斉の孫子の兵法を初め兵法書が主でしたから、かなり信頼できるテキストだと思うので残念です。したがって、この竹簡を底本にすると、断片の集まりになってしまい、テキストの形になりません。結局、半分以上を宋以来の印刷本などから補っていますが、補った部分が明示されていないので読者はどの部分が竹簡本なのかわかりません。また、「形篇」の竹簡が2セットあることが明示されていません。これじゃ「竹簡を底本とした」と!はいえず、「浅野本」だと思います。
翻訳にはかなり原文を補った部分があって直訳ではないが、読み易いようです。ただ、用語の解釈に訳者の解釈が強く出ているところがあるので、決定版という見方はしないほうがいいでしょう。一節ごとについている解説と翻訳を読んで、間の書き下し文と白文は読まないという読み方になりがちですが、それは少し危険な気がします。訳者=解説者が個性的過ぎるので、つい手の内にのせられてしまうからです。また孫子の書き下し文の中には調子のいい名言や諺とされている有名な部分も多いので、ちょっと読んでみるのもいいと思います。詳細な解説は面白いのですが、ちょっとついていけないなと感じる議論も散見します。
巻末の解説は、春秋戦国時代の戦争の状況、兵学の歴史!にも説き及んだ非常に興味深いもので、読ませます。