著者はアニメ製作会社ジブリの美術(背景イラスト)出身で「
ハウルの動く城 [DVD]」や「
崖の上のポニョ [DVD]」等を手がけた方。そのため芸術畑の風景画家の教則本と違う点が多くとても役立つ。
他の本より優れている所(1)透明水彩ではなく不透明水彩ガッシュ(いわゆる学童用水彩絵具と同じもの)を薦めていて、ガッシュを用いて描かれている。単に筆者が使っていたからではなく、なぜガッシュが良いのかをちゃんと説明している。またガッシュでも透明水彩のように描くこともできることを実例で見せている。
(2)風景スケッチ教則本にある「よく観察して描く」というスケッチの基本だけに終わらない。単に風景を見たままに描くのではなく「絵画」に変換する際に使われる効果的な演出(例:雲の配置)について書かれている。
(3)風景描写に欠かせない遠近法はもちろん、影の法則、樹木の枝ぶりの法則などの説明がある。これを知っていれば細かい部分に目が行ってしまい風景絵全体のバランスが崩れるということなく描けるようになる。また、風景を前にしたスケッチの進み方や所要時間が短くなる。
(4)筆の使い方がちゃんと写真入りで書いてある。画材店へ行くと「こういう筆致のためにはこの筆、こういう線にはこの筆…」とやたら筆をたくさんそろえる必要があるかのようにすすめられる。本書では基本の中太丸筆1本で広い面塗りから点描、細い線までどのように筆の穂先を揃え絵具を含ませ紙にあてて描くのかがわかるように写真で解説されている。
(4)の1本の筆で何でも描くというのはアニメ背景現場では昔からある技法なのだが、趣味家向け水彩本では全く紹介されていなかったので、この本に載っていることはとても有意義。
法則はどれも実例や図、絵を使いながらわかりやすく説明されている。これを発展させればアニメ背景のように実際には見ていない風景や想像上の風景を描いたり、写真資料をもとに違う天気や時間の絵も描けるので、イラストレーターや漫画家にも有用。
余談だが、
三原色で描く風景スケッチ (朝日カルチャーセンター講座シリーズ)の著者が書いているが、からりとした晴天のぬけるような青空は透明水彩絵具では再現できないとして、透明水彩とガッシュを併用した作例を紹介している。本書はそれに応えるかのように、ガッシュを用いて青空と立体的な雲のの描き方も丁寧に解説している。