教育「問題」についての言説というのは世の中に満ち溢れている。しかし、それら言説の大半の根拠とされるものは自分が見聞きした半径3m内程度のエピソードや1件2件程度の「事件」を基にしているものではないか?そのような凡百の言説等とは一線を画するのが当著者であられる苅谷教授です。現在、ようやく「格差」という問題が世間で注目を浴びるようになったが、SSM及び調査研究によって10年近く前に呈示されておられました。「教育」改革という教育全体を取り扱うならばきちんと定量的データ・実証的研究に基づかなければ、むしろ実害が新たに発生する(それも時間の経過とともに)という指摘とともに。
この書ではかつて苅谷教授がインセンティブデバイドと名付けた問題(両親の階層によって努力(量)に「格差」が生じるというもの)の拡大・顕在化の証明や、国が教育改革と称して熱心に取り組んでいる「道徳教育」の無意味さの指摘など、この10年間無駄に教育を弄んだかということの指摘に加えて、現在、苅谷教授が真に教育改革が必要と捉えている問題が呈示されている。それは公立学校教職員人口ピラミッドの歪さに生じる教育資源の再配分・再利用の問題だ。
格差に関する提言を無視した結果現在の状況がある中で、再び苅谷教授の提言が無視されてしまうのかそれが政府、マスコミに問われている。中教審であろうが教育再生会議であろうが構わないが苅谷教授が委員として名前を連ねていないという教育行政の現状に歯がゆい思いをせざるをえない。この本を読んでしみじみとそう思う。