内容に関してはいわずもがな。西洋が誇る大天才が、人の人生について語った珠玉のエッセイ集で、誰にとっても至高の読書となることでしょう。自身が苦難にみちた人生をおくった彼の言葉は、熱にあふれています。
しかし、翻訳がひどい。原文を直訳したようなキレの悪い日本語が延々とつづきます。意味がわからず頭をひねってしまうような文もしょっちゅうみられました。
なかでも、ぶちキレて本を投げそうになったのが以下の箇所(p185):
「私がある人を必要とするよりも、その人が私をもっと必要とすることが分かったとたん、その人は私がその人から何かを盗んだように思い、報復してその奪われたものを私から取りもどそうとつとめるであろう。」
益の多い方が盗まれたように思う、という意味不明な日本語です。英訳(ドイツ語読めなくて恐縮ですが)をあたってみたところ、Payne氏の訳は
"if a man gets idea that he is much more necessary to me than I am to him, he at once feels as if I had stolen something from him;"
また、Saunders氏の訳は
"If a man comes to think that I am more dependent upon him than he is upon me, he at once feels as though I had stolen something from him;"
となっており、やはり金森氏の訳とは前半部が真逆です。たちが悪いことに、その後につづく
"If a man is really of very great value to us, we must conceal this from him as if it were a crime."(Payne)
"if we really think very highly of a person, we should conceal it from him like a crime."(Saunders)
という箇所、「もし自分にとって有益な人と付き合うときは、有益であることを隠せ」というような文ですが、これを金森氏は
「相手がほんとうにわれわれにとって価値がある場合には、われわれは相手に対する軽蔑の気持を、それがまるで犯罪ででもあるかのようにひた隠しにしなければならない。」
と、無理やり語句をねじこんでまとめています。こんなの意訳ですらない。
こんな人が全集の翻訳なんかやってるのだからたまったもんじゃありません。
ちなみに、同じ白水社からでている「随感録」は、軽快でわかりやすく、すばらしい和訳でしたので、ショーペンハウアーをどれか読んでみようという方は、迷わず「随感録」から読むことをおすすめします。