宝暦治水を題材とした杉本苑子の直木賞(1962年)受賞作。
私の誕生よりも前に書かれた作品なのだが、古さを感じさせない。
世に言う「薩摩義士」の話は、鹿児島では大方の人のこころに刻まれている物語で、この小説の主人公でもある平田靱負は鹿児島人の誇りでもあり、一つの「武士の生き様」を体現した人物として尊敬を集めている。
敢えて言うならば、登場人物の台詞が基本的に共通語である点が、鹿児島出身者としてはやや物足りなさというか、臨場感に欠けてしまう印象を受ける(というわけで星4つ)。
が、これは読み手の属性によるものであり、この作品の出来は直木賞受賞作の名に恥じないものであると感じる。
上巻は、幕府からの普請を命ずる奉書が届くところから、藩主重年が継嗣擁立の為の江戸参内の途中で現地を訪れるところまで。
特に、重年が継嗣善次郎(のちの重豪)を伴い、麦飯を食べる場面描写は見事である。
この重豪がその才を愛でた曾孫の斉彬が、討幕を為す西郷や大久保を育てたのだから、歴史と言うのは面白いものだ。
下巻は、その後の工事完成と平田の自害までを綴る。
もちろん本書はフィクションであるが、著者の地理的調査に裏打ちされた緻密な構成や、女性ならではの観点からの描写が垣間見え、エンターティメントとして十分なリアリティーを持たせていると感じた。