重厚にして流麗軽妙な語り口と文体が小気味よく、グイグイ物語に引き込まれる。
このストーリーテリングはもう現代作家では再現し得ない独特の妙味であろう。
「史上最悪の大犯罪」「悪魔の所業」といった按配のケレンミ溢れる煽りが頻発するが、しかもそれがコケオドシに終わらず、作者一流の発想で常に読者の想定を超えた展開を見せてくれる。
ポーを思わせる前半のミステリ、ヴェルヌやデュマを髣髴とさせる後半の勇気凛々の冒険活劇、そこに貫かれる怪奇と悲恋。
謎解きも難解になりすぎず、あくまでシンプルでありながらも、全体に張り巡らされた伏線は深く、読後のカタルシスは充分。
この匙加減が通俗小説でも成功した乱歩の真骨頂である。
著者が優れた短篇のなかで断片的に覗かせていた持ち味を、すべて惜しむことなく結集させたような超絶たる完成度。
有無を言わせぬ、名作中の、名作である。