俗に「唯識三年、倶舎八年」という。「桃栗三年、柿八年」をもじった言葉だが、唯識と倶舎は仏教の基礎学とされている。本書ではそのうちの一つ、「倶舎」を中心にアビダルマ仏教を論ずる。アビダルマとはダルマ(仏陀の説いた真理)についての研究という意味である。釈迦滅後百年経つと仏教教団は分裂を始め、部派仏教の時代となる。各部派は競い合って釈迦の教説を理論化・体系化した。それがアビダルマである。
アビダルマの白眉と言うべきものが説一切有部に属していた世親(ヴァスバンドゥ)の著した「アビダルマ・コーシャ」つまり「倶舎論」である。世親はこの書を著した後、大乗仏教に転じ、主に唯識説を確立する。従って、唯識説は倶舎論を土台としており、部派仏教と大乗仏教の接点ともいえるのである。
八年かかる(?)というアビダルマの要点をわかりやすく、コンパクトに解説してもらえるのはありがたい。しかも文庫本という手ごろな形で出されているものはほかにないと思う。「大毘婆娑論」にあまり触れていないのは残念。ま、しかたないか。
アビダルマをこのシリーズに入れようとこだわったのは上山春平氏だという。発行者の角川源義氏は一遍を入れたかったのを断念してアビダルマに一巻を割く決断をしたという。この決断が貴重な本書の成立につながったのである。