本作は、孔子に未知の弟子がいたという設定で、孔子研究会がその弟子から孔子の言葉の背景や孔子の有名な弟子(顔回等)の業績を数回にわたり聞き出す中から、孔子およびその弟子たちの思想の真髄(もちろん作者井上靖の解釈ということになりますが)を明らかにしていきます。東西南北の人であった孔子が陳蔡の野で窮したときに毅然と語った「君子、固より窮す」や「逝くものは斯くの如きか、昼夜を舎かず」などの孔子の名言の数々がその背景とともに血肉を与えられた言葉として読む人の胸に響きます。そして、孔子が人間性の点でいかに大きな人であったかということ、そしてその孔子を敬慕した弟子たちの行動の凛々しさに、感動を禁じえないでしょう。本書は、論語に馴染みがあろうとなかろうと、人間孔子の魅力に触れることのできる傑作です。