著者の杉山登志郎は、医師としてキャリアを積んだのち、発達障害を専門とする研究をかさね、自らはユング派の教育分析をうけてきたという興味深い人物である。本書はたった182頁の薄い本だが、そこにはこの10年で10倍以上の通告件数がよせられるようになった子ども虐待の世界が、やさしい表現で包括的に呈示されている。
本書の特徴は、タイトルにあるように、被虐待児を、第一の古典的発達障害(精神遅滞、肢体不自由)、第二の自閉症症候群、第三の軽度発達障害(学習障害、注意欠陥多動性障害)に次ぐ、第四の発達障害ととらえているところにある。
その世界を丁寧に描くために、前半の6章で、反応性愛着障害、解離、高機能広汎性発達障害、多動性行動障害、解離性同一性障害や複雑性PTSDなど、多彩な症状を、著者の勤務先である小児センターでみた674名もの子ども虐待の症例から、具体的に解き明かす。こうした虐待の結果として、第7章で明らかにされる「子ども虐待が脳に及ぼす影響」は、因果関係はともかく、その深刻さを如実に示すものであろう。そうした深刻な状況をケアするために、どのような心理アセスメントを行い、ケア体制を整え、家族も含めたケアを行うのかを取り扱うのが後半の3章であり、最後に、それでも希望がもてる根拠を「レジリアンシー(復元力)」研究に見出している。
どことは具体的には書かないが、著者がやんわりと、あるいはさらりと書いてある所にこそ、現場ではクリティカル(危機的)だったのだろうと想われる個所があり、この著者の懐の深い力量と、それゆえのバランスの良さが伺える。
私自身は、それでも、多分に器質的な側面も強い他の3つの発達障害に、人為的な側面も強い子ども(被)虐待を並べるのにはやや違和感を覚えるが、その内容の広さと深さ、丁寧さと具体性は、この領域の書籍の中でも群を抜いている。強く推薦したい次第である。