この著者の整体ミニ講座を受け、そのやわらかい物腰や語り口に共感して本書を手にとりました。
全体に「子どものありのままを受け止める」という一貫したメッセージがあるように感じてとても
よかったのですが、一つ残念だった点だけ挙げておきます。
野口整体の主な流派では早期離乳を重視していて、著者も「なぜなんだろう?」と疑問に思った
そうですが(正しい疑問だと思います)、早期離乳(断乳)をすることで、おっぱいに頼らず
子どもをよく見てやれるようになるメリットがあるからではないかと著者なりに(無理な)推測を
されています。
この解釈の部分だけは、本書を流れる「子どものありのままを尊重する」と矛盾する(子どもの体
が必要で欲しているものをあえて与えないというのは、子のありのままを無視することにならない
のでしょうか)上、医学的にも心理学的にも現在のところ正しいとは言えませんので指摘しておきます。
この著者は男性ですし母乳育児論の変遷や最新の母乳の科学に通じていなくても仕方がないかも
しれません。また、医者や科学者や母乳専門家ではないので、このような情緒的な解釈をする
しかないのかもしれませんが、こういう善意の解釈はナンセンスです。
野口整体の創始者である野口晴哉が『育児の本』で「捕食」や離乳食、母乳について書いたのは
1969年。この頃はまだ乳幼児の消化機能や母乳に関して医学的にほとんど解明されておらず、欧米の
ミルク育児文化にならって、育児専門家は軒並み早期離乳食開始、早期断乳を推奨していました。
現在では乳幼児の消化発達について医学的解明が進み、離乳食は6ヶ月頃から開始するのがもっとも
適切であることや、母乳はできるだけ長期にわたって与えるのがよいことなどがわかってきており、
当時とはまるで状況が変わっています。
いつ離乳食を始めるか、母乳をいつまで与えるかは、子どもの一生の健康にかかわる問題です。
(という認識をしっかり持っている人は、一部の母乳育児専門家以外、あまりいないかもしれませんが)
発展途上国では、3歳以上まで母乳を飲んでいるかどうかで死亡率が大きく変わり、また、断乳された
子は自然卒乳した場合に比べて3倍以上の死亡率であること(
よくわかる母乳育児p.13)など考えると
「子どもがおっぱいを欲しがる」=「その子の体にとって母乳が必要だから欲しがっている」と素直に
解釈していいのではないでしょうか。
アレルギーのある子は長く母乳を欲する傾向があるということもわかってきていますが、子どもは、自分の
体に必要なものをちゃんと体でわかっているんだと思います。
医学的によくわかっていなかった時代に仮説を唱える分にはあまり罪がないと思うのですが、医学的
解明が進んでいる今、40年も前の誤った説に固執する意味はなく、むしろ、かつての仮説をばっさり
捨てて前を向いていただかなくては、人の健康に関与する職業として無責任なのではないでしょうか。
私の周りには整体の先生に言われたからという理由で断乳した人が何人かいますが(しかも「このまま
飲ませ続けていると将来不登校になるよ」などと根拠不明で支離滅裂な言われ方)、母子の健康に
かかわる職業を自認するのであれば、整体の先生方にはもう少し科学的な勉強もしていただきたいです。