最初の感想は、ずるいくらい面白い本だな、というものだった。『子どもと話す言葉ってなに?』という題名が表すように、本書は言語学の専門書でもないし、外国語学習やスピーチ技術を磨くための実用書でもない。といって、言葉に関する子供向け解説書といった、題名通りの一冊というわけでもない。では何なのかと訊かれると、少し困る。確かなのは、本書が言葉について語っていながら、実は私たち自身、そして私たちの社会を映し出す鏡になっていることだ。それは、言語学の専門書が観察対象として、実用書が技術として、言葉を扱い、私たちと言葉との間に一定の距離を置こうとするのとまったく対照的である。本書では、言語の習得から運用、言葉と意味といった問題から、政治や経済、福祉、人権、アイデンティティといった問題までもが、縦横無尽に語られる。そうした意味では、本書は鏡というよりむしろ万華鏡のようなものかもしれない。言葉という万華鏡を著者の視点で覗き込んだときに見えてくる世界。そこでは、言葉は世界と不可分で、言葉について考えることは、私たちと世界との関係を結び直すことである。
・・・などと書くと、何だか小難しい本のように思われるかもしれないが、本書で語られていることの多くは極めて日常的な事柄で、特に著者が最近の「ネイティブのように英語を」ブームに淡々と冷水をかけているあたりの文章は、かなり爽快なものがある。
当たり前のことだが、言葉について語ったどんな言葉も、言葉でしかそれを語ることはできない。言葉とは何かという問いに言葉でしか答えを返せないのだとすれば、言葉の本質は誰かが学問的に証明してくれる類のものではなく、私たちがそれを使い続けていく過程の中にしかないのだろう。本書は、その過程を豊かにしてくれる、貴重な道標だと思う。