秦の始皇帝ほど歴史的な評価が分かれる人物も少ない。中国を始めて統一した偉業と焚書坑儒で伝わる暴君とは、見方により毀誉褒貶が分かれる。中国古代の歴史に造詣が深い著者は、始皇帝が幼少の頃から威厳を有し、極めて聡明であって6歳から先生について熱心に学んだこと、13歳で即位してから成人して直接政治を見るまで表に出ず、天下統一を果たしてからは如何に人民のために心身をすり減らして努力したかを既存の資料に反論しながら綴っている。特に法治制度に反対し私利私欲に走る腐敗官僚(いつの時代でも同じ)を排除するためあらゆる手段を取り、そのために焚書をしたこと、阿房宮や皇帝稜の建設には人民を使役せず、腐敗官僚の粛清で有罪判決を受けた70万人に及ぶ罪人(如何に腐敗役人が多かったか)を使って建設したこと、儒者を生き埋めにしたという坑儒は後代儒者の曲解であり生き埋めではないことを現存する石碑の文言などを使って反論している。始皇帝の評価を変えようという著者の意志が良く出た良書であり、かつ漢文引用が多い割には読み易い文章となっている。