国立がんセンター名誉総長・垣添忠生先生といえば現在日本でがん医療にかかわっている医師では知らぬ者がいないキーパーソンであるし、今上天皇の前立腺がんに関する主治医の一人として、あるいは2007年春の退官までNHKはじめマスコミでも積極的に発言されて一般市民でも知る人が多いと思う。その現代がん医療の中心にいる医師が夫人のがん闘病に文字通り悪戦苦闘する体験記である(その意味でも、後世、21世紀初めの日本のがん医療あるいは在宅ケアの実態を示す貴重な資料となるであろう)。
垣添先生が勤務していた病院に夫人が入院中、年末年始だけは自宅で、と長期外泊を計画する。お子さん・ご家族がいない夫妻なので垣添先生が点滴や在宅酸素療法や排せつの介助を一手に引き受け(この準備のくだりも実態を知る医療者にはご苦労がしのばれます)ご自宅へ。ところが、ご自宅で病状がどんどん進んで大晦日に自宅で永眠される。その後の氏の茫然自失(3か月に及んだようだ)とそれから、こうした著作に取り組めるように「回復」するまでの経験と告白も貴重である。ただ、それを特に取り上げて本書の帯広告のように「がん専門医が実践したリーフケアの道のり」と宣伝するのは適切ではないと思う。
なぜならば、本書の白眉はご夫妻のなれそめから発病して闘病中、そして臨終後に垣添氏が感じたご夫婦の交流にこそあると思うからである(終盤の蝶や小鳥、ウサギのエピソードは涙なしでは読めなかった)。本書はグリーフケアの教科書ではなく、氏の夫人への熱い思いを込めた鎮魂の書である。
がんと取り組む患者、ご家族、親しい方を喪ったご遺族ばかりでなく、がん医療を考える医療者、一般の方にも広くお勧めしたい。最近、垣添先生の職を引き継ぐ、国立がん研究センター(2010年4月から改組・名称変更)の理事長が選出されたが、氏と同様の真摯で有能、情熱の士であることを期待する。