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自らが生涯の目標としたお市の方は、秀吉を拒絶し柴田勝家と北の庄で死ぬことを選びます。しかし秀吉は彼女の忘れ形見ちゃちゃ姫を手に入れ、ついに自分の終生の願望を達成しました。
しかし、天下人となってもなお、女性は秀吉を拒み続け、かえって秀吉が破滅させた男達へその愛情を注ぐのでした。自分の甥関白秀次を秀吉が粛清させたとき、秀次の愛妾を秀吉が殺させたという有名な史実がありますが、山田氏はこれを「女にもてる男」豊臣秀次の愛妾達が、秀吉を拒んで秀次に殉じる場面であるとして描いています。絶対の権力を持ちながら、女性の愛を得る事ができない現実は、秀吉の心をますます歪ませていきました。
そして彼の歪んだ精神は、全ての人々に対する徹底的な不信感と敵意を生み、ついには「てきとてきとをともぐいさせる」ため、誰も望まなかった朝鮮出兵が始まるのです。誰も秀吉を止めることができないまま、彼の妄執は全てを巻き込んでエスカレートしていくのでした。
自らの妄執に振り回され続けた哀れな権力者に、救済はあるのでしょうか?
山田風太郎の同世代の友人たちは、太平洋戦争で死んでいった。
そして風太郎はこの作品中でも秀吉朝鮮出兵と太平洋戦争を重ねて描いている。そうした描写を通して見えてくるのは、山風の戦争への怒りである。太平洋戦争の責任者を批判するように、山風は秀吉を責め立てる。これは『太閤記』でありながら『戦中派不戦日記』の続きでもあるのだ。そしてこの怒りは、一見荒唐無稽だが無名戦士の墓標が立ち並ぶ忍法帖、明治政府の礎の下に敗者の屍が並ぶ明治ものにも通底しているテーマなのだ。山風のいう「妖説」の妖は「妖怪」の妖、かもしれない。
また、殺された妻妾すべての辞世が並ぶ秀次妻妾虐殺事件の描写は圧巻の一言に尽きる。
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