吉村達也氏の本はずいぶん読んでいるが、この作品はひと味もふた味も違ったミステリーに仕上がっている。しかも、あの精神分析医(サイコセラピスト)氷室想介が久々に復活したのだから、吉村ファンには待望の一冊だ。
400ページほどのボリュームにもかかわらず、本文レイアウトのせいか、著者の筆力のなせる技か、非常に読みやすく、一気に読了。久々に、本を読んでの寝不足。
魔界百物語は以前、別の出版社でノベルスと文庫で出版されていたので、そのリメイクと思いきや、登場人物に共通点はあるものの、まったく違った作品だった。これには正直、驚いた。
陰謀説が好きな主婦が氷室想介を訪ねてくるという異様なプロローグからして、ミステリアスな展開を予感させてくれる。彼女の幼い息子が、14階のベランダから転落。事故か、心のバランスを崩した母の犯罪か、それとも……。
物語の導入部分から、巧妙な伏線がはられていて、そこに意外なヒント、意外なトリック、意外な犯人、とミステリーの醍醐味が味わえる仕掛けになっている。読み出したら、途中で止められず、ノンストップで読了した。
今後、隔月発売で、第5巻までがSEASON1という設定だそうだ。第5巻で、殺人狂QAZの正体が明かされるのだが、それが誰か、著者は「意外性あり」と言う。読者への挑戦である。これも楽しみの一つだ。
著者は「こんどこそ中断はなしに、完結に向けて全力で疾走したい」と書いている。全100巻――これも驚きである。読者の私のほうが先にくたばってしまうかもしれない。そうならないためにも、20年以内で完結してほしいと切にお願い申し上げる。
そんな先のことより、この1巻目を読んだ身としては、次の2巻目が気になってしかたがない。そう思わせただけで、このシリーズの幕開けは成功なのだろう。まんまと著者の術中にはまったのかもしれない。