この小説には、
いくつもの歌に込めて主人公たちの気持ちがつづられています。
そのなかには出てこないのですが、
私は、竹内まりやの「駅」という歌を思い出しました。
この歌は、
「駅で、見覚えのあるレインコートの男性を見かけた」
という一節からはじまります。
そして、その一瞬の出来事に呼び覚まされた「感情」が、
いかに自分の心に残って離れないか、
ということが歌われています。
別れた人に似た人を見かけて、
「はっ」とするのは誰にでもあることだと思いますが、
それを歌詞にしたところに、
この歌が多くの人に歌われている理由の一つがあると思います。
この『好き、だからこそ』も、
「駅」と同じように、
おそらく誰にでも思い当たる「感情」を、
丹念に描いています。
冒頭、
電車のなかで主人公が、
乗っているはずのない人のことを
捜してしまうシーンなどは、
まさにそれに当たるでしょう。
ほれたはれた、もいいけれど、
感情の深いところで、
自分にも他人にも、
「忘れられない人がいる」、
ということを認めてあげるのもいいもんだと
思いました。