「神はサイコロを振らない」と同じ系列の、筆者の持ち味の出た作品です。筆者が音楽教諭の子息であることが実感できます。
架空戦記がクローズアッップされている筆者ですが、「神サイ」が少しその香りがする(航空機事故がテーマ)なのに対して
この作品は、ファンタジックな音楽ドラマになっています。伏線を縦横に廻らせつつ、人物を丁寧に描き込んでいく手法は
ミステリの要素もありつつ、音楽への造詣も垣間見えて、作品そのものに音楽的な調和の心地よさを感じます。
素人オーケストラを立ち上げていく途上で、四苦八苦しながら駆けまわる主人公が、徐々に人材を得てコンサートにこぎつける。
一見、「オーケストラの少女」の翻案のようでありつつ、シンプルな旋律から、楽器がハーモニーを加えていって壮大なフィナ
ーレに向かってヒューマン・ハーモニーを奏でるような、ラヴェルの「ボレロ」を思わせる、音韻に満ちた秀作です。
最近、筆者は指揮者の義兄や、音楽教諭だった父親と不和の状況のようですが、この作品を読むと、好むと好まざるとにかか
わらず、その人格形成の一端を少し見せられたような、ちょっとニヤっと笑いながらも一気に読まされてしまう、不思議な
読後感が残る。大石ワールドが決して一面でなく、「多面体」であることが判る好例と思います。
神はサイコロを振らない (中公文庫)