主人公の倫(とも)を中心に、須賀、由美、美夜、悦子、瑠璃子たち……明治期の女の物語。
倫は激情を厚い氷の下に落としこんで生きてきた。夫の行友(ゆきとも)に仕えながらも生々しくわきあがる嫉妬。倫はそれら全てを心中にしまってきた。こうして溜められたエネルギーは結末近くの二人の白刃のごときやりとりにつながってゆく。
私が一番好きなのは、倫が独りで坂を登る場面。闇と光、冷たさと暖かさ、絶望と希望の交錯。ここは倫の道行きに見える。
刊行は昭和32年。半世紀前の作品のため文中には初めて聞く風習や言葉も多いが巻末に注解が有るので不便はないし、むしろ知の幅が広がる。素直に著者の違う作品も読んでみたいと思わせる凄まじい筆力。第10回野間文芸賞受賞作。