この作品にはミュージカルコメディーという触れ書きがありますが、厳密にはミュージカルではありません。歌も挿入されていますが、その部分は微々たるものです。しかし、明るい雰囲気と突拍子も無いシーン転換にミュージカル的な要素を垣間見ることが出来ます。そして、これはそうした要素が極めてスタイリッシュにオリジナリティー豊かに活かされている快作。
ヌーベルバーグ映画の特徴として、しばしば過去の作品の様々な部分を引用するというのがありますが、これはその典型。特に古きよきハリウッドミュージカルの特徴がいったんばらばらにされて随所に配されています。とはいうもののフランス映画らしい思わせぶりな長い会話と一見意味の無い物語の進行が実にうまくブレンドされていることにゴダール監督の緻密な作品作りと才気を感じます。監督の妻でもあったアンナ・カリーナ演じる可愛いらしい乙女アンジェラがバーで歌と踊りを披露するシーン、彼女がジャン=クロード・ブリアリ扮する恋人と本に印刷された文字を駆使して無言の言い合いをするシーンなど、面白みある場面が実にうまくつなぎ合わされているところが楽しい。
ゴダール監督作品には珍しく、ほぼ全編がキュートでハッピーな雰囲気でコーティングされている本編はとてもユニークな存在であるのと同時に、本当は監督自身が心の奥底に宿している“優しさ”を最も顕著に我々の前に提示してくれている愛すべきシネマであると言い表すことができるでしょう。