奥の細道ほど、日本人の旅への憧れを想起させる古典は他にないだろう。「月日は百代の過客にして行きかふ年も又旅人なり」学校の教科書でもきっと学んだであろうこの名文を今一度じっくりと味わいたい方のために書かれた本である。昭和30年に書かれたものだけに、文字使いなど現代とは趣を異にするが、慣れてくると逆に芭蕉を理解するには絶好の文章であるように感じられてきた。著者は、同行した門人、曾良の日記を参照しつつ、自らも芭蕉の旅路のあとを辿り、芭蕉の創作の会社を試みその壮大な創作活動に思いをはせている。奥の細道を紀行文として読むと芭蕉の真の意図はわからない。全編を通じて芭蕉自身の人生観が反映された壮大な文学に仕上がっていることを読み解いてゆくことになる。巻末に、奥の細道全編が掲載されているのも嬉しい。じっくりと解釈を学んだ後に、今一度通読すると味わいは一段と深まる次第である。