江上剛氏の作品をこれまで多く読んできた。「金融庁物語」に代表される、銀行を舞台にseriousの一方でunrealisticの内容に読者が困惑という作品。或いは「円満退社」に代表されるTHE有頂天ホテルの如きドタバタ劇。こういう印象が強かったが、いくつか趣向の違う良い作品も出てきた。今回の「失格社員」はモーゼの十戒を擬えて銀行員や会社員の戒律を10話にしたものだ。それぞれ銀行内でここまではあり得ないような誇張はあるが、この十戒ということを考えれば、それなりに面白い。特に同僚、上司を平気で騙す、陥れる、裏切るという場面はどの企業や組織でもありそうだ。特に第8話「汝、盗むなかれ」にある外資系金融機関の広報部次長のずるがしこさ、卑怯さは必読であろう。今回のレビューで敢えて5つ星にしたのは、「あとがき」にかえて「十一番目の戒律」として、江上氏の第一勧銀入行後の父の教えに沿った芯のある行動からである。若い時から常に配属先の上司との衝突の繰り返し、大蔵省(現金融庁)銀行局課長との喧嘩(そして出入り禁止)、そしてこれは有名な第一勧銀総会屋事件、退職という、珍しく「総会屋事件」以前のご自身の生き様も赤裸々に載せられており、これによって今回江上氏を見直した次第である。巷に氾濫するコンプライアンス関連書籍よりも、この「失格社員」の方がその周知徹底に効果ありと見た。