マルセル・プルーストによる大長編小説。第一部「スワン家のほうへ」は、三つの部分からなる。第一部「コンブレー」では、主人公が幼年時代を過ごしたコンブレーの思い出が主体となり、寝る前の母のくちづけ、家政婦フランソワーズのマドレーヌの香りとコンブレーの連想、コンブレーの日曜日、そして、メゼグリーズとゲルマント二つの方角への散歩の四つの主題が語られる。
第二部「スワンの恋」は、時代が15年ほど遡り、エレガンスの権化であるスワンが、ココットのオデットに熱を上げ、遂には結婚するに至るいきさつを紹介する。
第三部「土地の名、――名」では、いくつかの土地の名の連想から、旅行に出る計画を立てる少年時代の主人公がいるが、健康上の理由から医師にとめられる。仕方なくシャン・ゼリゼに遊びに行った彼は、スワンの娘ジルベルトと知り合いになり、恋に落ちる。そして、今に時代は移り、主人公は昔を振り返って、時の流れに愕然とする……。
この長大な小説のエッセンスを一言で要約するのは不可能に近いです。話の筋の進行とともに、要所要所で主人公の回想や、事態に関する詳細な分析が入り、その組み合わせの独特なバランスの上に、全体が成り立っているからです。強いて言えば、タイトル自体にエッセンスがつまっているように思います。それなりに裕福な家に生まれ育った、身体の弱い一人息子が文学に目覚めていく、その歴史をつぶさに見ていく、というところでしょうか。
私自身は、プルーストの、人間観察眼の鋭さ、また、意識の流れを徹底的に追う、その緻密さに惹かれました。一つの感情の動きを、その微細な原因にいたるまで、何ページもの情報量を割いて、徹底的に見つめぬくスタイルは、この小説ならではでしょう。主人公の意識の流れに身をまかせ、彼の感情の動きに同化して読んでいくと、百年前のフランス人と、現代に生きる自分の意識がシンクロする、そんな書物です。