著者は京大理学研究科附属天文台長で、太陽を中心とする宇宙全般の科学的な探求に全力を注いでいる一線の研究者。ただ、過去に一般向けの啓蒙書(単著)は書いていないらしく、市民講座での連続講義をベースにした本書が最初の素人向け概説書になったようだ。
とはいえ、一般向けとは言いつつも内容は相当に難しく、咀嚼するのは大変。書き手の能力に起因する社会科学的な晦渋、韜晦、もったいぶりではなく、あくまで自然科学の理論と観測に基づくがゆえの難解さ、つまり読み手に物理学の一定の常識さえあれば呑み込めるはずの難しさで、物理学の素養人並みの評者には正直、通読はホネだった。文章自体はまともで、説明も、例えを多用する丁寧なものだけに、むしろこちらの不勉強を嘆くばかり。ともあれ、光球の温度は6000度ほどなのに、プラズマ状態のコロナは100万度などといった太陽の基本構造から始まって、フレアのメカニズム、大小の爆発を繰り返している太陽からのX線放射・高エネルギー粒子線・太陽風を予知するための「宇宙天気予報」の重要性、さらに宇宙の生成と発展をめぐる世界的な最前線の論争の紹介など、本書がカバーする範囲は広く、つっかかりながらも面白く読み終えることができた。
時事的なことに絡めれば、著者は前書きと第3章「太陽が地球に与える影響」の中で近年の「地球温暖化」論に対し、「温暖化の原因は二酸化炭素と言い切っていいのだろうか」「(むしろ今後は)寒冷化が心配されている」(10頁)、「『温暖化二酸化炭素説』が確立しているかのような議論がまん延する状況を、われわれ科学者は黙ってみていていいのだろうか、というのが(惑星科学者たちの)大方の議論。私もこの議論に全面的に同意する」(139頁)などと記している。
さらに「最近100年間の地球温暖化に太陽黒点や宇宙線が関係しているかどうかはまだ論争中で、賛否両論がある。面白いことに、気象学者の多くは猛反対しており、天文学者・物理学者には賛成する人が少なくない。学会のコミュニティーは対立している」(141頁)などとも。最前線の科学者である著者は「分かっていないことはあまりに多い」という宇宙科学の実際を謙虚に認め、だからこそ世界的に協調した観測体制と(ドグマにとらわれない)世界的な論争こそが重要、時々刻々と成果は上がりつつある、と楽観的なようだ。悲壮な口吻で「科学上の論争は決着済み。論争ではなく行動(二酸化炭素排出規制)を」と唱える、「温暖化二酸化炭素説」陣営の方々とは対照的だった。