私は推理小説をたくさん読む人間ではないが、推理小説を読んだとき、好きになってしまうことがある。それは、謎解きだのプロットといった推理小説の肝の部分よりも、なんか、主人公に愛着を覚えるときだ。結局文学作品などと同じような読み方をしているのだろう。
で、この太陽がいっぱいは、言うまでもなくアラン・ドロンの超有名な傑作の原作であるけれども、あの映画の中で全く割愛されている人物が出てくる。つまり、主人公トムがずっと、友達でい続ける、小さなものに彫刻する彫刻家の女性、だ。米粒のようなものに、何かを描いたりする。
その彼女との友情が、実は一番トムを癒しているのではないかなー、と思う。その女性との、程よい距離を保った金粉のように貴重な友情が、この不幸なトムの人生の中で、唯一の救いに見えて、私にとってこの小説をいつまでも忘れない愛着を感じる存在にしている。