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太陽がいっぱい (河出文庫)
 
 

太陽がいっぱい (河出文庫) [文庫]

パトリシア ハイスミス , Patricia Highsmith , 佐宗 鈴夫
5つ星のうち 5.0  レビューをすべて見る (3件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容(「BOOK」データベースより)

息子を呼びもどしてほしいという、富豪グリーンリーフの頼みを引き受け、トム・リプリーはイタリアへと旅立った。息子のディッキーに羨望と友情という二つの交錯する感情を抱きながら、トムはまばゆい地中海の陽の光の中で完全犯罪を計画するが…。精致で冷徹な心理描写により、映画『太陽がいっぱい』の感動が蘇るハイスミスの出世作。

登録情報

  • 文庫: 410ページ
  • 出版社: 河出書房新社 (1993/08)
  • ISBN-10: 4309461255
  • ISBN-13: 978-4309461250
  • 発売日: 1993/08
  • 商品の寸法: 14.8 x 10.6 x 1.8 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 5.0  レビューをすべて見る (3件のカスタマーレビュー)
  • Amazon ベストセラー商品ランキング: 本 - 258,899位 (本のベストセラーを見る)
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By vadim トップ1000レビュアー
形式:文庫
私は推理小説をたくさん読む人間ではないが、推理小説を読んだとき、好きになってしまうことがある。それは、謎解きだのプロットといった推理小説の肝の部分よりも、なんか、主人公に愛着を覚えるときだ。結局文学作品などと同じような読み方をしているのだろう。
で、この太陽がいっぱいは、言うまでもなくアラン・ドロンの超有名な傑作の原作であるけれども、あの映画の中で全く割愛されている人物が出てくる。つまり、主人公トムがずっと、友達でい続ける、小さなものに彫刻する彫刻家の女性、だ。米粒のようなものに、何かを描いたりする。
その彼女との友情が、実は一番トムを癒しているのではないかなー、と思う。その女性との、程よい距離を保った金粉のように貴重な友情が、この不幸なトムの人生の中で、唯一の救いに見えて、私にとってこの小説をいつまでも忘れない愛着を感じる存在にしている。
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形式:文庫
90年代に一度、日本で“ハイスミス・ブーム”が起きた。発端は、ミステリー界の革命的才女ルース・レンデルが「ハイスミスを師と仰いでいる」と発言したことが伝わったことだろうか。それまでハイスミスは、ヒッチコックが映画化した『見知らぬ乗客』の原作を書いた作家としてしか評価されてこなかったから、出版社が先を争って翻訳を進めたあの時期は、我々天の邪鬼なミステリー読者には、幸せな時代だった。ハイスミスは、本人もかなり性格が歪んだ偏屈なオバさんだったと言われている(真偽のほどは不明)。

しかし彼女の作品に他のものと違う輝きを放たせたものは、その偏屈さにあったような気がする。「人嫌い」「孤独を好む」「いつも冷ややかに他人を眺める」そんな彼女の資質が、胸が苦しくなるような独特の心理描写や、登場人物に生身の陰影を与えたのだと思う。作者の眼は常に乾いて冷徹なのだ。本作は、フランス映画の名匠ルネ・クレマンがメガホンをとり、アラン・ドロンが美青年ぶりでスターにのし上がった『太陽がいっぱい』の原作にあたる。99年にハリウッドがオールスター・キャストでリメイクした『リプリー』はさらに原作に忠実だ。
改めて小説を読み直してみると、ハイスミスの巧妙なプロットにため息が出る。

同性愛者で貧しい育ちの若者リプリーがなりすました、傲慢で裕福なディッキーは、絶えず正体がバレることの恐怖と戦いながら、言葉巧みにスレスレで危機をかわしていく。ディッキーを演じている時も、リプリーに戻った時も、周囲からの疑惑に眼差しに晒されながら、「talented」な悪知恵でどうにか切り抜ける。物語の展開に始終ハラハラドキドキさせられる、こんなミステリーはちょっと他に類を見ない。

幼い頃、初めて親や友達に嘘をついた子供のように、気づけば掌にじっとり汗がしみでるような焦燥感。その嘘がバレないようにまた嘘をついて、蟻地獄に嵌っていくような静かな恐怖。嘘は必ず破綻して周りから蔑まれることがわかっている。それなのに嘘を続けなくてはいけない恐怖。この作品にスリルを味わうのは、そのような日常の感覚の延長線上に、シニカルに描かれた殺人事件だからであろう。
さり気なく人間の本質に迫った、まったくもって見事な筆力だと感服する。
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形式:文庫
『太陽がいっぱい』の冒頭、主人公トム・リプリーはコン・マン(詐欺師)として登場する。米国国税庁職員ジョージ・マッカルピンになりすまし、税金をきちんと納めていない(とトムがあたりをつけた)人々へ督促し、不足分の小切手をまんまと回収しているのだ。
犯罪に手を染めながら、他方でトムは、25歳にもなって自分は何をしているのか、という真っ当なあせりを持っている。そんな彼に、ディッキー・グリーンリーフの父親ハーバートが、イタリアにいる息子をニューヨークへ連れ戻してほしいと依頼する。おたずね者で、すぐにでもニューヨークとおさらばしたかったトムは、彼の依頼を引き受けることにした。
向かった先はディッキーのいるイタリアのモンジベロだが、トムの頭の中では行き先は「ヨーロッパ」だ。そこが再出発の舞台だ。船上で、トムは就職について想いをめぐらす。ハーバート・グリーンリーフの金を使い果たしても、米国へもどることはないかもしれないと考える。
事実そうなってしまった。愛憎関係の末にディッキー・グリーンリーフを殺した後、ディッキーになりすまして逃避行の末ヴェニスでは宮殿に住んだ。彼の財産を騙し取ることに成功し、物語は終わる。だから、『太陽がいっぱい』はまんまと世間を欺いたトムのコン・ゲーム小説でもあり、コン・マンからジェントルマンへと変身を遂げたトムの成長物語でもある。
ところで、本書の原題は‘The Talented Mr. Ripley’である。直訳すれば『才人リプリー氏』。どういう意味で才人なのか?

ぼくはなんだってできるんだーボーイだって、子守だって、経理だって
できる。・・サインだって真似ることができるし、ヘリの操縦もできる。
ダイスも扱えるし、他人そっくりになりすますことだって、料理だって
できる (79ページ)

引用したのは、ディッキーが君は何ができるのかと尋ねたときのトムの答えである。そう、トムはいまでいうマルチタレントのはしりなのだ。「サインだって真似ること」、「他人そっくりになりすますこと」は後のトムの詐欺行為を暗示させるのだが、それらすらトムにとっては(著者にとっても)才能の一部なのだ。
著者はトムの描写を通じて、世の中を渡っていくために人はどうやって才能を発揮するのか、マルチな才能は人に何をもたらすのかを、読者に問いかけているのかも知れない。
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