出版社 / 著者からの内容紹介
川に落とした十文の銭を捜すために、五十文のたいまつを買った青砥(あおと)左衛門。それを嗤(わら)った人々に彼は、「今捜さなければ十文は永久に川底に沈んでしまう。たいまつを売った者が利を得ただけと思うかもしれないが、高所からみれば、世間としては一文も失うことなく、六十文がその価値のままに生きるのだ」と説く。今や経済活性化の譬えにも引かれる有名な逸話である。『太平記』は南北朝の動乱を描きながらも、このような脇役とそのエピソードを織り交ぜて、飽きさせない。そもそも「太平記読み」という語り芸を生み、後世の芝居や小説類に多大な影響を与えた、とびきりのエンタテーインメントなのだ。――さて物語の展開はというと、足利尊氏が病死、二代将軍義詮の世となるが、肉親の直冬、また新田義貞・楠木正成といったかつてのライバルの遺児たちも蜂起し、世代が変わっても「太平」とはほど遠い乱世が続く。諸将野の浮沈の中で、佐々木道誉は相変わらずのバサラぶり。やがて三代義満の登場をもって本作は大円団を迎える。異本の多い『太平記』で、今回底本とした大正本は史実により近く、挿話も多い。その初の完全翻刻・全訳注の意味は大きい。
出版社からのコメント
尊氏病没。二代将軍義詮と、新田義貞・楠木正成の遺児たち、また肉親の足利直冬らとの抗争は世代を交替して続く。武家の驕慢と公家の没落、転換の時代を活写して、天正本『太平記』初の完全翻刻・全訳注、遂に完成。