収録された「戦場図・地図」は110点。副題にもある「戦闘データ」の量は、圧倒的の一言。良い意味で「前代未聞の書」と評価できます。
本書の大きな特徴は、前書きにもある通り、「陸戦」をメインに扱っている事です。なるほど、海戦全般を収録した「手頃な」ガイドブックは多々ありますが、陸戦となると数は少ない。いや、ほとんど無いと言っていいでしょう。本書は、この穴を埋めるべくして書かれた「野心作」です。
これは、陸戦が海戦と比較して、戦闘期間がベラボウに長く、参加兵数も遥かに多く、また1つの戦闘の途中で部隊が出たり入ったりする。また、山あり谷あり川ありの地形を考えると、陸戦の戦場は複雑怪奇。この辺りが、本書のような類書が今までに無かった理由だと思われます。
そして「戦闘データ」について述べますと、これまで星の数ほど戦記本はありましたが、どれも「断片的な情報」で調べ物をする時に混乱された方は多いと思います。本書は「戦記のポケット事典」と銘打ってあるように、必要と思われる情報が各戦闘ごとにまとめられています。簡単な調べ物なら、本書一冊で済み重宝することでしょう。
また、本書をお勧めする理由の一つに、マイナーな中国大陸の戦闘を大量に扱っている事にあります。「徐州作戦」「第二次上海事変」「重慶爆撃」「江南殲滅作戦」「大陸打通作戦」「拉孟の玉砕」など、これらはほんの一部です。太平洋戦争前史として、日中戦争をまるまる一章分、ページ数を割いていますから、本書は『日中戦争・太平洋戦争 主要戦闘事典』とするのが、正しいタイトルとも言えます。
他にもビルマ方面、ソロモン諸島、ニューギニア等のマイナーな戦闘も、大量の戦場図と合わせて取り上げている事に感動すら覚えます。「ポートモレスビー進行作戦」や「魔のサラワケット越え」など、恥ずかしながら本書の戦場図を見て、初めて全体像を得心した次第です。
陸戦の特筆点ばかり挙げてきましたが、無論、海戦も手堅くまとめられており、各戦闘の解説も詳細かつ平易です。本書が、文庫の書き下ろしとして出版されたことは、情報量から考えれば「破格の大サービス」と言えるでしょう。私の本年度、一押しの本となる事はおそらく間違いありません。戦史・戦記に興味のある方は、ぜひ手に取ってみて下さい。