天武朝における王位継承問題で複雑な立場をとる大津
皇子の苦悩と失墜を描いた歴史小説である。
一方で、自ら背負った過酷な運命を切開こうと、大津
と御方の二人の皇子の素晴らしい信頼関係を、見事な
構成で描写されている。
豊かな想像力と史実に基づいた日本の歴史に重ね合わせ、
緻密に錬られた著者・黒岩重吾氏が見事に描かれている。
何気なく、読者は無意識のうちに1300年前の律令政治の
確立をめざした飛鳥の地に連れて行かれた錯覚に陥るの
である。
大津が持って生まれた人望と政治手腕が、やがて朝廷内で
危険分子と見なされて、権力の外に追いやられる姿は、
現代社会にも通じるものがあるのではないだろうか?
大津皇子を慕い、最後まで献身的に尽くした御方皇子の
人生がとても切なく、見事に描写されているのだ。
このストーリ展開は史実なのか?という、史学者の声が
聞こえてきそうだが、この小説には全く不要なのである。
大津と御方皇子の絆が、中央権力に立ち向かって行く姿勢
に、深く共感できる充実の一冊である。