上巻も含め、この本の面白さは他のレビューで語り尽くされている。私も総体において異論はない。よって、敢えて、不満な点を述べておきたい。それは、下巻において、矢内原や河合といった経済学部内の抗争が詳細に描かれ、そこから、平賀粛学における田中耕太郎法学部教授の位置づけに繋がるのだが、その時期、法学部内のおける右派(推測するに、刑法の小野清一郎など)の力関係にも今一歩踏み込んで書いて欲しかった。本書では高い評価を受けている憲法の宮沢俊義でさえ、戦時中には「時局迎合的な論文」を書いているし、民法の我妻栄のナチ傾倒も隠された過去であろう。小野清一郎は戦後追放されたが、その弟子の団藤重光や、宮沢・我妻は戦後の東大法学部の花形教授として生き残った。彼らが昭和十年代にどのような動きをしていたのかをもっと詳細に知りたい。それとも、それは法学界のタブーだろうか?