日米修好通商条約調印後に尊皇攘夷運動の盛んな水戸藩士の中でも特に過激な武田耕雲斎率いる水戸の天狗党が筑波山で挙兵してから越前で処刑されるまでの事件の流れを詳細に記録した傑作、本書に出会うまでは、なぜ京都の徳川慶喜に直訴するために戦いながら絶望的な行軍をする必要があったのか分からなかったが、本書を読んで西へ移動するしか生きる術がなかったことを知ることができた。徳川慶喜が幼少の頃から顔を合わせていたはずの水戸天狗党の面々を鰊蔵に押し込めて、1日に数百人(武田耕雲斎の3歳の孫や妻を含めて)斬首に処するという過酷な決断を下した件については心情を推し量ることができなかった。斉昭の忠実な家臣が斉昭の息子に殺されることになるとは歴史の皮肉である。ありままの事実を淡々と書き並べたような盛り上がりのなさやドラマ性のなさに物足りなさを感じる人もいるかもしれませんが、この淡々とした話の展開が、真実をもとにしたリアリティと臨場感を醸し出す効果を高めており、この作風は著者の大きな魅力だと思う。この作風は他の作品にも一貫しており、読後の充実感と爽快感を与えてくれる。まだ著書の作品を読んだことのない人は本作よりも「関東大震災」「長英逃亡」「破獄」「漂流」等の作品から入ることをお勧めします。