独特な幻想と詩情を湛えた作風で好事家に愛された英国短編小説の神様コッパードの傑作11編を厳選して収める日本オリジナル短編集。本書に収録された作品には奇怪な謎が答を出されないまま判断を読み手に委ねる形の物が多く、読んでいる途中で作者がどういう風に物語を終わらせるのか予想がつけ難く全く落とし所が読めません。それでも読み始めたら意地悪だが何処か心惹かれる作品世界に夢中で没頭し忽ち魅力の虜になるでしょう。
『消えちゃった』夫婦と友人の三人が車で旅する内奇怪にも一人また一人と消えて行く。『天来の美酒』父が死んで相続した故郷の古屋敷の酒蔵で見つけた麦酒(エール)と謎の美女が男の運命を急変させる。『ロッキーと差配人』耳が遠く何時も笛を吹いているロッキーが奇妙奇天烈な方法で農場の牛の流行病を治し差配人を助ける話。『マーティンじいさん』「最後に埋められた者が死者の奴隷になる」という言い伝えを信じるマーティンじいさんが姪モニカの死後に味わった地獄の様な憂鬱な日々。『ダンキー・フィットロウ』四六時中眠ってばかりいる男ダンキーと駱駝みたいな顔の女の呪われた結婚生活の顛末。『暦博士』暦を作る暦博士がこの世が終わるという悪魔の流したデマを聞いて迷う話。『去りし王国の姫君』詩人が死に幽霊と化して初めて愛に芽生える姫君との神秘的な愛の形。『ソロモンの受難』変人ソロモン教授の「意思で人を殺す能力」に怯える夫婦が経験した世にも恐ろしい出来事。『レイヴン牧師』お人好しで心優しいレイヴン牧師が審判の日に天使から意外な裁きを受ける話。『おそろしい料理人』傲慢な料理番の女が大旦那から辞職を言い渡され散々拒むのだが・・・・。『天国の鐘を鳴らせ』農夫の息子から役者に憧れて進みやがては伝道師になる男の数奇な一生の物語。悲恋や苦悩の果てに道半ばで命尽きる男の夢幻的情景のラストが激しく胸を打つ私が最も愛する一編です。