すばる望遠鏡の成果や各種探査機によって日本の天文学は飛
躍的な発展を遂げ、また、日本のアマチュア観測家は世界に類を見ない活躍に
よって天文学を支えています。しかし、日本人の手による天文学の大事典は、こ
の四半世紀間刊行されておりません。天文学関係の「大事典」と名の付く書籍は
ありますが、それらは見出し語が五十音順に掲載されている辞典形式の書物では
なく、章・節・項で構成される普通の解説書です。
本書は、日本を代表する130名の天文学者、天文普及教育関係者が5000項目の
天文学用語を解説した本格的な大事典です。また、特に専門家向けに企画された
ものではなく、天文ファンから天文教育普及関係者まで、幅広い読者層を想定し
ています。そのため、最先端の天文用語から、現在でも天文学の分野で一般的に
使用されている星座名、星の固有名、各種天体の通称名なども積極的に見出し語
として採用しました。
本書の企画を立ち上げた故山田卓(やまだ・たかし)氏(本書編集主幹)は、
1962年より名古屋市科学館でプラネタリウム解説などを通じて科学普及活動に
携わり、プラネタリウム来場者に語りかける対話形式の"生解説"スタイルを日本
で最初に実践してきました。また、各種の天文普及教育活動を通じて、サイエン
ス・コミュニケーションをその独創的なアイディアで具現化しています。2004年
4月、科学館における天文教育の普及・啓発活動の業績により、「科学技術普及
啓発功績者」として文部科学大臣賞受賞を受賞しています。
本書は、その山田氏の幅広い人脈によって、天文学の分野で日本を代表する
方々に編集委員・執筆者として加わっていただくことが可能になりました。本書
の構想は、最も基礎の位置天文学から素粒子論にからむ最新宇宙論まで天文学の
すべてを網羅し、幅広い読者の要求に応えることができる事典を目指すというも
のでしたが、紙媒体の特徴を生かした形で実現できたと考えています。
最近はサイエンス・コミュニケーションの重要性が認識されるようになり、
科学者自身が、一般読者向けに記事や解説を書かなければならない機会も増えて
きています。その際、自分が専門とする分野の用語が、一般的にはどのような使
われた方をされ、また、周辺分野の術語の定義を確認しておくことは、サイエン
ス・ライティングの基本となるものです。さらに、教育関係者に対しては、教
科書等に記述された天文学の基本事項に、多方面からの付加情報を添えて、授業
や講義をより豊かな内容とするために役立たせることのできる解説を心掛けてい
ます。
専門用語の中には、字面からは想像できない分野で使用されている術語もたく
さんあります。本書の語釈や解説は、科学系のジャーナリストなどが、天文学関
連の記事を書く上で、その用語の適用範囲や実際に使われる場面でのニュアンス
を知るためにも役立つはずです。