80年代後半から現代までの天安門事件から中国の近代化・発展を背景にして、美しい少女が激しい恋に落ち、成長していく姿を中心に描いた映画です。映画の原題は『頤和園(Summer Palace)』。劇中にも出てくる、かって清朝の西太后が過ごした夏の離宮のこと。それは主人公たちが過ごした、『人生の夏』とも重なります。
主人公を演じるハオ・レイという女優さんの存在感が素晴らしい。
ニューヨーク・タイムズはこの映画を評して、ロウ・イエ監督の断片的にエピソードを挿入していく展開とヒロインを美しく撮ることへの執着を、60年代のゴダールと比較しています。確かに、ここでのハオ・レイはゴダール映画のヒロインのように可憐で美しい。ただ、一つ大きく異なる点があります。この映画はゴダールのように観客を突き放しません。ここには、積極的に観客を抱きとめ、当惑させるような熱気があります。主人公の少女の燃えるような目に、うつろな表情に、見ている側はいつの間にか吸い込まれるかのようです。まるで主人公と監督、そして見ている側が、時間と空間を越えて何かを共有しているかのようにさえ感じさせます。それはこの映画で描かれるグローバリゼーションに翻弄される中国の若者たちの姿が、我々日本で暮らす人間にも重なるから、というだけではないでしょう。
過去の回想になど興味はない、この映画はそういう種類の映画です。また、そういう意味において、この映画は個人的であり、政治的でもあります。
どんな夏にも、必ず終わりがあります。しかし、たとえ夏が終わっても、天安門の学生たちも、そして見ている側も、生き続けていかなければならない。劇中 主人公の独白にあるように「そこに出口はなく、幻想があるだけだ」としても、です。
「天安門、恋人たち」は、観客にそんな確信を与えてしまう素晴らしい映画です。