『天地明察』は大変楽しく読みました。渋川春海と彼を取り巻く人間模様、改暦にかける情熱など、読んでいて爽快でした。
但し、天文学や数学、暦学への理解不足を諸処に感じたのが残念でした。更に中国の暦についての認識不足は免れません。
授時暦は天下の名暦ですが、食予報においては宣明暦が優れていました。だから第一回目の競争は上手くいかなかったのです。また実際のところ、中国の暦ではマテオ・リッチの後輩のイエズス会の宣教師等が中心となって明朝末期に編纂が開始され清朝初期に頒布された「時憲暦」以前、「食」を分秒単位で当てることはできませんでした。それを可能にしたのは西洋天文学です。本書にも僅かに『天経或問』を入手して西洋の視点を取り入れた記載がありますが、大和暦が宣明暦と授時暦と食予報で優位に立てたのは、マテオ・リッチが中国で紹介した西洋天文学の知識を渋川春海が取り入れたのが大きいと思います。
とはいえ、天文学や数学に相当通暁した専門家でもなければ、この本に書かれた内容の全てを完全に正しく書くのは困難でしょうし、専門家がこの爽快な人間模様を描き出せるとも思えません。むしろ難しいジャンルに挑戦した作家の勇気を称えたいと思います。もし可能なら改訂時に学術的な視点からの解説を専門家に補ってもらえたら、読者としては嬉しいです。