天国と地獄、言うまでもなく金持ちと貧乏人の世界を比喩しているが、幼児誘拐事件の犯人と被害者、そして、警察との息詰まる心理劇を描いたサスペンス映画の傑作だが、営利誘拐事件で、もっとも犯人にとってリスクが高く、警察にとって逮捕するチャンスは身代金の受け渡し時なのだが、この映画の犯人は知能犯で捜査陣も予期できない方法でまんまと身代金をせしめる。特急こだま号をつかった犯人の手口は、捜査陣だけでなく、映画を見る観客をもあっと驚かす。この映画が制作されたのは1963年、東京オリンピック、新幹線ができる前年だった。いまと比べれば、まだ貧しかった。自家用車、冷房、海外旅行、そんなことは金持ちか芸能人の世界で庶民には関係ない、そんな感じだった。
いろんな見方ができるが、私はこの作品で犯人役でデビューした山崎努に強烈な印象を抱くとともに、この素晴らしいキャラクターの俳優のフアンになった。犯人は街病院の勤務医だが、被害者と目と鼻のところに住んでいる。高台にある被害者の豪邸と湿気の多い低地の粗末な木賃アパート(これも死語になりつつあるのかな)に住む犯人。動機はなんなんだろう。いずれにしろ、犯人は確信犯で、逮捕後も強がりを見せる。しかし、最後にはやはり彼も弱い人間の1人であることをあらわにして、彼は号泣する。とにかく、この映画での山崎努の演技は素晴らしかった。サスペンス映画として優れているというだけでなく、黒澤監督らしく、人間を描く、とくに犯人の描き方に感心もし、それがこの映画をより魅力的なものにしている。