東宝からリリースされている黒澤映画のBlu-ray版はあまりDVD版と変わらない画質だという声も聞かれ、Amazonのレビューでもそういった書き込みを多く目にします。
とりあえず自分の目で確認しようと比較的マスターの保存がよさそうな本作を選び、すでに持っているDVDと比較をしてみました。
結論を言うと、Blu-ray版の価値は確かにあります。HD版は高解像で細かなディティルまでしっかりと見てとれ、モノクロの階調も豊かです。これに比べるとSDのDVD版はぼんやりとし、階調も少なく、とくに黒がつぶれています。両者の違いは明白です。
具体的にいえばタイトルの横にある映倫番号、SD版では読めませんが、HDでは読めるだけでなくフォントのデザインまでわかります。
高画質は映画そのものの価値をも向上させています(というかこれまで損なわれていた)。たとえば前半の権藤邸、集団を一画面に収めたまま話が進む場面などでそれは顕著です。それぞれの表情やしぐさ、目線や細かな身体の動きから醸し出される緊迫感。DVDでは味わえなかったものです。セリフを言っていない演者も含め、全員が役になりきってそこに立っていることが実感として伝わってきます。
また解放された人質の少年が、遠景の権藤邸のショットの窓の中で、以前のように遊んでいる楽しげな身体の動き。SDでも見えることは見えるのですが、HDだと声が聞こえそうな気がします。
ただし今回のHD化が手放しで絶賛すべき作業だったかどうかは分かりません。マスターの保存状態にも因るので一概には言えませんが、たしかに同時代の洋画など比べて鮮明とは言い難い画質かもしれません。修復という点についてもやや疑問が残る仕上がりです。画面上の傷もかなり減ってはいますが、大きいものは残っています。カットによってはフレームの一部が不自然にピンボケしています。全編にわたり白く変色しているフィルム左右の端を、修復せずにわずかなカットで処理していることも残念です。(もっとも、これは単独でみるとまったく気がつきませんが)
さらに付け加えるなら、DVDにあった見ごたえのある特典映像が無くなっていることも不満があります。
結論として、個人的にはこの名画を改めて目を奪われ、新鮮な興奮とともに展開を追った一回の視聴だけでも、このBlu-ray版の価値は十分だと感じていますが、DVD版も手放すほどではありません。