天国と地獄の舞台は横浜だ。逆探知のために権藤邸に訪れる警察車両は横浜高島屋の配送車両である。黒澤と横浜については、作品上の接点は薄い。本作と姿三四郎くらいのものだ。しかし黒澤はこだわっている。広い横浜で、撮影場所がピンボイントなのだ。「横浜港」とか、そんな類いではない。もっとミクロな住所単位の話だ。西区浅間台という場所に黒澤はこだわっている。「姿三四郎」は浅間神社、本作の権藤邸は浅間台にセットを作った。この地は横浜開港時に、東海道から横浜道を分岐した場所で、確かに歴史上重要なポイントだが、何をもって浅間台にこだわったのかは謎である。ただし、見晴らしは映画の通り絶景である。権藤邸の場所はいまマンションが建っているが、さぞ夜景はきれいだろう。山崎務が見上げるのは映像のマジックで、浅間台ではない。このセットは黄金町から見た南太田の山だ。黄金町は本作では悪の巣窟として描かれている。中学生のころにリバイバルで初めて見た時は、思わず本物かと思った。黄金町は実際に横浜大空襲のときに、電車の利用者など600人以上が駅の階段付近で焼死しており、あの暗澹としたイメージは本当に怖かった。権藤邸から見えるピンクの煙〔本作はモノクロで、ここだけカラー〕は、当時の横浜製糖工場の煙突からのものだ。スピルバーグは「シンドラーのリスト」でこの手法を使った。横浜製糖はボウリング場を経て、いまは専門学校になっている。首都圏の方はロケ地を訪ねてみるのもいいだろう。作品は三船の圧倒的な存在感と、仲代のクールな演技が堪能できる傑作である。